森からの手紙


森からの手紙:平成18年/年末号


伝統文化に生きる命の力

                             宮 司  阪井 健二

 いつもお世話になりましてありがとうございます。
 今年もあとわずかとなりましたが、一年間神社とこのいたらない私を支えて戴いた皆様に対しまして心より感謝申し上げます。来る新年が皆様にとりまして幸の多い一年となりますように心よりお祈り申し上げます。

 さて今年から私は土生町鼓踊り保存会の班長を指名されて務めることになりましたが、八月はじめの町会館での踊りの練習に初めて参加しました。とはいえ盆踊りに参加することは生まれて初めてだし、生まれつき踊りのセンスなんてない私は、練習とはいえほとんどの方は毎年踊りに参加して完全に踊りをマスターされている方々の中にまじって一人全くいつまでも様にならない手真似足真似で悪戦苦闘しました。周りの人もこの人どうなるのかと心配したり、あきれたりしながら見ていたようです。
 一説では室町時代から土生の村に伝わる伝統的な踊りです。泉州一帯には同じように雨乞いの踊りがどこにでもあったと考えられていますが、土生には村独自の踊りが洗練されて残り伝わってきました。
 太鼓と樽を桐のばちで叩く独特の撥さばき、音頭と掛け声、盆踊りに吊られる大きな提灯。踊り方にも二通りあるとか、かつて扇踊りもあったとかいろいろ聞きますが、なんにせよ、この踊りにはこの土生に生きてきた人々の思いが染み込んでいます。いつの時代にも同じように踊ってきた踊りを今年も先祖の霊を迎えるお盆に踊る、それは何より先祖の霊をもてなすことになり、感謝の心の表現に他なりません。
 四日間にわたる練習を連日私は休むことなく参加しました。練習には音頭とりの名人であり、土生神社宮座の座老も現在勤めておられる福本兵一朗さんも参加しておられて音頭を聴かせて戴きましたが、それを聴いただけでこの練習に参加してよかったと思いました。その音頭を通して土生の村の歴史と伝統の中に生きている祖先の思いが現代を生きる私達に応援歌を送ってくれているように感じられたのです。
 しばらく練習を続ける間に、ある踊り手のベテランに「まず足を覚えなさい、手は後から自然についてくる。」と教えて戴きました。私はなるほどと思いました。練習が終わる頃にはいくらかは様になってきたのか、みんなからほめられるようになりました。それは決して上手になったわけでなく、初めがあまりにひどかったからだろうと思います。
 それからやぐらの準備にもほとんど見ているだけでしたが二日間とも参加し、盆踊りの三日間も休むことなく参加して、私服のままでしたが、踊りの輪の中に参加させて戴きました。そうしていると、だんだん恥ずかしいという気持ちよりも楽しいと言う気持ちの方が勝ってくるのを感じました。不思議な感覚でした。
 土生町の鼓踊りは岸和田市の無形文化財に指定されています。建物とか工芸品と違って、無形文化財は人から人に伝え体で覚えて伝承していかないと消えてしまうものです。当然それを正しく伝えていく能力と技が必要になってきます。その高い能力と技を身につけた人が中心になって無形文化財は伝承されていかなくてはいけないのですが、一つの村の中にはいろんな人がいて別の面ですぐれていてもそのようなことは苦手な人もいるわけです。。でもそんな人でも臆することなく、村の歴史と伝統の伝承の中に参加していく、飛び込んでいくことが大切ではないかと思います。その中に飛び込んでいけば、必ずその人はそこから何か力を得ることができるし、伝統の継承にはあらゆる人が参加していることが未来への大きな力になっていくと思うのです。
 例大祭の前に山口町会長さんと食事をしながらお話をしている時に、会長さんが、「お祭りを運営していく上で一番大切なことは、はみごをつくらないことだ。」と言われたのです。これは本当に大切なことを言われていると私は襟を正して聞かせて戴きました。伝統を引き継いでいくことにおいて中心になっている人や考えだけが大切ではないのです。中心にある人や考えを大切にしながらも、そこからはずれていく人の思いをくみ上げることも重要なことなのです。難しいことだと思いますが、価値観が多様化している現代ではそれが特に大切になっていると思われます。
 伝統の継承 それは結局人と人の心のつながりの継承ということなのです。人と人が助け合って生きていく、その地域社会の継承が地域の伝統文化を継承することにつながっているのです。そして逆にまた地域の伝統文化の継承が地域社会のつながりを守り育てていくのでしょう。
 今地域社会の人間関係が希薄化しているといわれ、その影響がさまざまな事件を引き起こしているとも見られています。こんな時代が来た時のために祖先は連綿と地域の伝統文化を守り、この村の中で伝えてきたのではないでしょうか。
 今いじめの問題が大きく表面化し、青少年の自殺の連鎖が止まりません。こんな時こそ、大人がまず身を持って命を大切にし、人生を強く生き抜く姿を子供達に見せることが大切だと思います。
 人間は自ら命を絶つことで人生に決着をつけてはいけないのです。苦しいことつらいことも乗り越えて生きるために私達は生まれてきたのです。そのために祖先から命を受け継いできているのであり、その命の大切さを伝えるために伝統文化も継承されてきたのであり、その継承を通して卑屈ないじめに屈するような弱い命ではないことを未来に生きる子供達に伝えたいと願っています。